今更だけど『生物と無生物のあいだ』を読んだ。まともな書評などは書けないので個人的に感じたことを適当に。
<目次>
ヨークアベニュー、66丁目、ニューヨーク
アンサング・ヒーロー
フォー・レター・ワード
シャルガフのパズル
サーファー・ゲッツ・ノーベルプライズ
ダークサイド・オブ・DNA
チャンスは、準備された心に降り立つ
原子が秩序を生み出すとき
動的平衡とは何か
タンパク質のかすかな口づけ
内部の内部は外部である
細胞膜のダイナミズム
膜にかたちを与えるもの
数・タイミング・ノックアウト
時間という名の解けない折り紙
(「BOOK」データベースより)
・内容はかなり平易、著者の個人的な体験記以外は基本的に知っていたこと。だからと言ってつまらないわけではなく、面白く読めた。
・分子生物学史(?)を大枠を捉えるという意味では良いと思うが、個人的には『Molecular Biology of the Cell』あたりを読んだ方が良いと思う。もちろん時間が無い、それほど専門的なことを知る必要がない、などという人にはちょうど良いかもしれない。
・部分部分は他の本の方が詳細に乗っているかもしれない。例えば「ダークサイド・オブ・DNA」は
『二重らせん』など。
・研究は「競争」という面があることも事実であり、そういうことも筆者の体験からひしひしと伝わってきた。そういう点でも良い文章だったと思う。教科書などの記載からはあたかもあっさりと結果が得られてしまうような錯覚を覚えることもあるが、実際にそれほど簡単にいくことは少ない。産みの苦しみの様な生の声をこのような「形」として研究未経験者に伝えることができているというのは良いことかと。
院生やポスドク、教員の方々のブログを読んでいた方がはるかに「生」なのだが
*1、研究未経験者はそういうブログをあまり読まないのではないかと思う。
・最後はGP2というタンパク質のノックアウトマウスについての話。結果としては見掛け上no phenotypeで、compensationが起こっていると思われる。当時は技術的に無理だったのかもしれないが、現在はconditional knockoutやknock downなどの技術も進歩しているので、そのあたりの検討が行われていると思うのだが…続きが激しく気になるが、残念ながら記載されていない。フォローもできなかった(>_<)
・「痛み」というキーワードを挙げる方もいらっしゃる
*2。
動的な平衡とは、著者が指摘する生命の本質であると同時に、著者の心のありさまでもある。その痛さと強さに、私は心を打たれずにはいられなかった。科学者として生きるというのは、これほどの痛みを伴い、これほどの強さを要するのか、と。
『404 Blog Not Found:書評 - 生物と無生物のあいだ』
正直この本を読んでもこのような「痛み」は感じなかった。いや、普段このような「痛み」を感じていないかといわれると、そうでもないのだが、改めてこの本から「痛み」を感じたか、と問われると答えはNoだ。それはこの「痛み」を当たり前のものとして認識しているためかと思う。これは教授だろうが院生だろうが関係なく、研究に携わる人間全員が共有しているのではないかと思う
*3。もちろんそれを一般書に書くことができるかどうかということは別の話だけど。
・第15章 時間という名の解けない折り紙 の後半部が特に良かったと思う。一部引用([ ]内および下線部は引用者による)。
今、私の目の前にいるGP2ノックアウトマウスは、飼育ゲージの中で何事もなく一心に餌を食べている。しかしここに出現している正常さは、遺伝子欠損がなんの影響ももたらさなかったものとしてあるのではない。つまりGP2は無用の長物ではない。おそらくGP2には細胞膜に対する重要な役割が課せられている[*4]。ここに今、見えていることは、生命という動的平衡が、GP2の欠落を、ある時点以降、見事に埋め合わせた結果なのだ。正常さは、欠落に対するさまざまな応答と適応の連鎖、つまりリアクションの帰趨によって作り出された別の平衡としてここにあるのだ。
私たちは遺伝子をひとつ失ったマウスに何事も起こらなかったことに落胆するのではなく、何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。動的な平衡がもつ、やわらかな適応力と滑らかな復元力の大きさにこそ驚嘆すべきなのだ。
結局、私たちが明らかにできたことは、生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性だったのである。(p.271-272)
最後の一文がなんとも無力感を感じる文章だが、それが
実感現実なのだろうな。
・結局「生物」と「無生物」のあいだに何があるのだろうか?「生物」の定義が問われている。福岡先生自身はその答えを動的平衡であると考えていらっしゃるようだが、これに賛成する人もいれば反対する人もいるだろう。まだまだ「生物」の定義すら出来ず、そういう意味では「生物学」という学問の範囲も曖昧なのだろうな。いや、生物学に限らず、境界を明確に引くのは難しい、というのは多くの「〜学」に対してあてはまるのかもしれない(明確に引くことが可能なのか否かすらわからないけど)。
・なお、一部に不正確な表現、不確実な物事を断定的に述べているような点がある。
・読み物としては良かった。
★★★★☆
*1変な表現…「はるかに生々しい」かな
*2Dan Kogaiさんの書評やhttp://blog.livedoor.jp/rkazuki/archives/50958066.htmlなど
*3競争を止めてしまい、政治にしか興味がない人もいるけど
*4このあたりの根拠は記載されていない
参考
- 2008/02/19(火) 22:04:05|
- 戯言
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